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日本経済新聞2012年1月10日
特別養護老人ホーム職員らが入居する高齢者を虐待するケースが増えている。2010年度の虐待は06年度と比べて5割増え、介護施設別の割合では最も多かった。虐待を防ぐため、特定非営利活動法人(NPO法人)が施設を独自に審査したり、経営者らが集まって勉強会を開いたりするなどケアの改善を目指す取り組みが広がっている。
厚生労働省によると、特養ホーム職員らが入居者を虐待したと自治体が判断したケースは、調査を始めた06年度は19件だったが、10年度は1.5倍の28件に増加。10年度に介護施設全体で職員らが虐待したと判断されたのは96件で、施設別では特養ホームが29.2%で最多だった。
介護施設職員らの虐待に関する相談や通報の件数も増えている。10年度は506件で、06年度(273件)の2倍近くに増加。虐待の内容(複数回答)では拘束などの身体的虐待が68件で最も多く、次いで暴言などの心理的虐待が35件だった。
特養ホームでの虐待が相次ぐ中、施設のケアを改善し運営の透明性を高めようとする取り組みも始まっている。
福祉施設のサービス向上などを提言するNPO法人「Uビジョン研究所」(東京・渋谷)は特養ホームを独自に審査する取り組みを11年6月から本格的に始めた。入居者の満足度や職員のコンプライアンス(法令順守)など同研究所が定めた一定の基準を満たしているかどうか判定し、「優秀」な施設の場合は認定証書を発行する仕組みだ。
調査は聞き取りのほか、夜間の抜き打ちも実施。大学教授や弁護士らでつくる第三者審査会が判定する。介護施設のサービス内容は都道府県が公表しているが、評価はしていない。同研究所理事長の●●さんは「特養ホームは実態が不透明な施設も多い。高齢者が『ついのすみか』として安心して暮らせるように厳しい基準で審査したい」と説明する。
審査を依頼した千葉県八街市の●●施設長の●●さんは「独り善がりにならないためにも外部の目でチェックしてもらうことは大切。入居者の人権やプライバシーに配慮して運営したい」と話す。
一方、特養ホームの経営者や施設長らの有志も10年11月、任意団体「特養をよくする特養の会」(事務局・京都市)を設立。11年から専門家の講師を招き、ケアやサービスの向上に向けて自ら勉強会を始めた。これまでは地域包括ケアや高齢者向け住宅などについて研修。12年には虐待防止の勉強会を計画している。
会員は当初16人だったが、11年末までに10人以上増加。特養ホーム経営者で同会事務局長を務める●●さんは「虐待を防ぐためにも、特養ホームには適切なケアが求められている。将来の経営のあり方や入居者の期待について学びたい」と話している。